「最初は記事も広告もすべてひとりでやっていました。半年で80本以上、深夜まで書き続けて、それでも業務は終わらない状態でした」。そう振り返るのは、当時、個人事業主としてファクタリング比較メディア(のちのrimad株式会社)を手がけていた、大野 克也氏(現・スレッドワーク株式会社 代表取締役)です。
そのような状況のなか、大野氏が選んだのは、人を増やして乗り切る道ではなく、業務委託3名の少数精鋭で事業を回す体制でした。
この大野氏個人に業務が紐づかない体制を選んだことが奏功し、rimadの法人設立から1年3ヵ月後に、2億円超でのM&Aを実現しました。
そんな大野氏に、業務を切り出す判断の基準や、売却先でも機能し続ける仕組み化の方法、そして売却も見据えたドキュメントの整備方法について、詳しく伺いました。

スレッドワーク株式会社 代表取締役 大野 克也氏
SaaS比較メディアの部門統括を経て独立し、2024年6月にrimad株式会社を設立。正社員ゼロでファクタリング比較メディアを運営し、法人設立から1年3ヵ月で2億円超のM&Aを実現。現在はChatworkにスレッド表示を追加できるマイクロSaaS「スレッドワーク」を立ち上げている。
全業務を1人でこなした立ち上げ期と外部活用への転換
rimad株式会社(以下、rimad。当時の屋号は「ファクログ」)は、ファクタリング(売掛金買取)の比較・口コミ情報を提供するメディア事業を主軸に、2024年6月に創業したスタートアップです。代表を務めた大野氏(現・スレッドワーク代表取締役)以外に雇用契約を結ぶ社員を置かず、業務委託との協働で事業を運営してきた点が同社の大きな特徴です。
大野氏は、知人の会社であるスマートキャンプ社でメディア事業の運営に携わった後、個人事業主としてファクタリング比較メディアの運営をスタートします。前職時代、組織の意思決定に自分の提案が通りにくいというもどかしさを味わったことが、大野氏が独立を決意する大きなきっかけになったといいます。
独立後、大野氏は「少数精鋭で動く」という方針を掲げ、当初は1人ですべての業務をこなす時期を経ながら、段階的に業務の切り出しを進めていきました。
前職のマネジメント経験が生んだ「人に振る」という原則
独立を後押ししたのが組織の意思決定の重さだとすれば、業務委託という手段を選ばせたのは、前職でのもう一つの経験でした。
大野氏が前職で携わっていたのは、月間300〜500万PVを集めるSaaS比較メディアの部門統括です。
組織規模が拡大するにつれ、大野氏は1on1や部門間でのミーティングが積み重なる経験をしてきました。本来注力すべき施策設計の時間が削られていく中で、「数値を伸ばす仕事に集中したい」という気持ちが強くなっていったといいます。
自分でやるキャパシティには限界があるので、いかに人に振るかということになってくるんですよね。そうなると、別に正社員じゃなくてもいいじゃないか、ということで、業務委託・外注・AIをどういう風に切り出して渡すかを考えるようになりました。(大野氏)
業務委託であれば、正社員のように評価やキャリアを管理する必要がありません。外注のように都度契約を結び直す手間もかからず、AIのように任せられる領域も限られていません。この管理負担の軽さと任せられる範囲の広さが、大野氏にとって業務委託という選択肢を選ぶ決め手になりました。
業務委託を利用した少数精鋭の体制を最初から前提に置き、大野氏はファクタリング比較メディア事業の立ち上げに着手します。
深夜まで続いた単独作業と最初の業務の切り出し
個人事業主として活動を始めた大野氏は、いきなりすべてを外部に任せたわけではありません。ある程度の売上が見えるまでは、自分の手で事業の形を確かめる――そう決めていた大野氏は、まず全業務を1人でこなす日々を経験することになります。
SEO記事の執筆から広告設定、Googleアナリティクスのセットアップまで、すべてを1人で担いました。最初の半年間に執筆した記事は80~100本。1記事を制作するにあたり5~6時間かかっていたため、深夜まで書き続ける日々が続きました。
広告運用の面でも、管理画面の複雑さやコンバージョンタグの設定に相当な時間がかかったといいます。「これをキャッチアップしている時間はない」と判断した大野氏は、ついに業務委託への切り出しに踏み切りました。
ある程度売上が出るまでは1人でやろうと思っていました。ただ、少し拡大していくとなったときに、業務が切り出せるものは業務委託や外注を使って、徐々に自分が手を動かす部分は切り出しながら、戦略や計画に集中するようにしていきたかったんです。(大野氏)
そうした中で、最初に切り出したのは記事作成と被リンク獲得の2つです。「ほかの誰かでもできる作業」から順番に外部へ委ねることで、自分がディレクションと戦略に専念できる体制へと移行していったのです。
こうして半年ほどで事業の手応えをつかんだ大野氏は、2024年6月にrimad株式会社を法人化します。
売却を見据えたファクタリング市場の選定と体制設計

そもそも、数あるジャンルの中で大野氏がなぜ「ファクタリング」を選んだのか。将来的なM&Aまでを見据えたうえでの市場選定が、その後の成長スピードや売却の実現を支える土台となったといいます。
法制度の追い風と競合空白を読んだ市場選定
大野氏がファクタリング比較メディアへの参入を決めた理由には、複数の根拠があったといいます。
ある程度売却を前提に考えていたので、市場を間違えないということが大事でした。市場を間違えると買い手がつかないし、売上も伸ばしにくい。そこはしっかりやっていました。(大野氏)
具体的な選定の根拠として大野氏が挙げたのは、以下の4点です。
<ファクタリング比較メディアの市場参入を決めた根拠>
1. テスト的に記事を書いてみたところ、ファクタリング関連のキーワードが最も順位が上がりやすかった
2. 2026年3月末での約束手形廃止が決まっており、市場全体でファクタリング需要の拡大が見込まれた
3. 競合となる口コミ・比較サイトが当時1サービスしか存在しなかった
4. スタートアップが参入し、ベンチャーキャピタル(VC)が投資する市場になっていた
「特に、VCが投資している市場は、客観的に見て成長が見込まれているということ。市場の成長性の判断軸として機能しました」と大野氏は話します。
この市場選定の精度が事業開始後の月次130~150%成長を後押しし、アフィリエイト単価も参入当初の平均6,000円から売却時には20,000円超へと伸長したのです。
外注と業務委託の使い分け
ファクタリング比較メディアの立ち上げにあたり、大野氏はエンジニア、デザイナー、マーケターの3名とは業務委託で、被リンク代行2名、月次顧問の税理士とは外注で、計6名の外部のパートナーと協働する体制を構築しました。
エンジニアやデザイナー、マーケターなどのコア人材は、前職時代の同期や知人からのリファラルを基本に起用しています。エンジニアについては初期構築が終わった後にフリーランスエージェントを活用し、前職同期が同席する形で面談を実施しました。マーケターも前職同期から、デザイナーはX(旧Twitter)でのつながりから起用するなど、役割によって調達経路は多様です。

このメディア運営体制において、大野氏は外注と業務委託を意識的に使い分けていたといいます。
大野氏の経験則では、外注は契約の手間が少ない一方で、作業範囲が厳密に区切られる分、目的や背景への理解が深まりにくいそうです。一方、業務委託は事業の目的を理解した上で動いてもらえるため、成果物の質を高めやすいといいます。
「プロジェクトが3ヵ月以上続くなら、業務委託の方がいい」というのが大野氏の判断基準です。
長期で付き合えるパートナーの見極め方
業務委託パートナーを選定する際に大野氏が重視したのは、コーディングやデザインといった専門スキルだけでなく「人柄とコミュニケーション力」です。
業務の背景や全体のプロセスを構造的に説明したときの反応を見て、合うかどうかを判断しています。お願いする作業自体はそこまで複雑ではないので、スキルよりも人柄とコミュニケーションに問題がないかが重要なんです。(大野氏)
とはいえ、面談の場だけで見極められることには限界があります。人柄やコミュニケーションの見極めは、あくまで入口に過ぎません。
実際に長期で付き合えるパートナーを見極める条件として、大野氏は3つを挙げます。
<業務委託パートナーの見極め条件>
1. ネット上では調べられない業界の一次情報(慣習・実務知識)を持っていること
2. 改善提案を自発的に返してくる自走力があること
3. 専門性と報連相のテンポ感が、事業の意思決定スピードと合っていること
中でも2つ目は、大野氏が経験則から導き出した条件です。
業務依頼の指示書の末尾に「ほかに精度が上がる方法があれば教えてください」という一行を必ず加え、この一行への反応を見て、パートナーの自走力を判断しています。
パートナーとしての優秀さの最終判定は、改善提案を逆に投げてくるかどうか。そこができる相手なら、長期で戦えます。(大野氏)
ドキュメント整備が業務委託の再現性を支える理由

市場と体制が定まった後、大野氏がさらに力を入れたのが、業務委託パートナーへの依頼内容を明文化するドキュメントの整備でした。PRD(プロダクト企画書)を起点に、要件定義書・指示書・マニュアルへと段階的に落とし込んでいく仕組みを構築することで、業務委託が安定して機能する土台を固めていきました。
PRDから指示書・マニュアルまで、一気通貫で設計する仕組み
この設計思想が具体的な形になったのが、ファクタリング比較メディアのサイト構築・運用の場面です。大野氏は業務委託への依頼を「まずPRDと要件定義書を作り、その下に指示書、さらにその下にマニュアル」という段階的な設計で組み立てています。
まず全体の方向性を「PRD」で示し、それを実現するための要件を「要件定義書」で明確にして、その要件を満たすために何を納品するかを「指示書」に落とし込み、実際の作業手順を「マニュアル」に落とし込む、という流れです。目的が明確だと、何を優先すべきかを判断しやすくなる。前職でよく感じた「何のためにやっているかわからない」という状態をなくしたかったんです。(大野氏)
この構造の最大のメリットは「一定の型を最初に作ることで、担当者が変わっても運用が止まらない」点にあります。
実際に被リンク担当には、HTMLマニュアルを事前に整備・共有することで、業界未経験のパートナーでも成果物を安定して納品できる体制を構築しています。
ドキュメントによる型化と並行して、大野氏が徹底しているのが日々のコミュニケーション設計です。コミュニケーションはチャットを基本としつつ、認識のずれが生じた際はすぐに電話で解消するというスタイルを徹底しており、「持ち越さず、その場で潰す」ことを意識しているといいます。
失敗経験から学んだ要件定義の精度の重要性
この仕組みにたどり着くまでには、要件定義の甘さが招いた苦い経験もありました。
要件定義が甘かったことで開発の手戻りが発生して、数ヵ月やりとりが続いたことがあります。データベースの構造を自分が把握できていなかったのがいちばん大きかったんですが、もう少し仕様を詰めて指示書を作っておけば手戻りはなかったかなと思います。(大野氏)
データベースサイトの開発では「どのデータがどこと連携するか」「何を表示させるか」の仕様を先に詰めることが、工数管理を左右するポイントとなります。しかしこのケースでは、そのあたりの仕様が確定できていなかったことで、結果として数ヵ月も進行が遅くなってしまったのです。
こうした失敗を経て、大野氏は「要件定義の精度が、そのまま業務委託の成果物の品質を決める」と考えるようになり、仕様の詰めと指示書の精度をさらに重視するようになりました。この認識がPRD・要件定義書・指示書・マニュアルという4階層ドキュメントを制作する習慣の土台となっています。
仕組み化が導いた2億円超のM&Aの実現

業務委託体制を安定させるために日常的に整備してきた4階層のドキュメント群は、M&Aという局面でもその価値を発揮することになります。
業務が大野氏個人に紐づかず仕組みとして整理されていたことが、買い手による買収監査(デューデリジェンス)を通過する根拠となったのです。
税理士はデューデリジェンスの経験がある人にしていたんです。その人にお願いすれば、デューデリジェンスで出された質問への回答が2週間ぐらいで終わる。会社を売ることを考えながら、早い段階から体制を整えていました。(大野氏)
月商が1,000万円超に達しようとしていた2025年。法人設立から11ヵ月目に、大手メディアからアライアンスの打診が届きました。
この打診をきっかけに、大野氏は本格的に会社売却も選択肢に入れ、条件を比較するためにM&Aマッチングサービスにも登録。複数の候補と交渉を進めた結果、最終的に2億円超でのM&Aが成立し、売却先となったのは東証グロース市場に上場する「株式会社アイズ」でした。
なお、ファクタリング比較メディア事業は、M&A後もさらに成長を続け、リード数は売却から5ヵ月で7倍に拡大しています。
業務委託活用を成功に導く、設計力とディレクション力
立ち上げから仕組み化、そしてM&Aまで、外部パートナーとの協働だけで事業を動かしてきた大野氏は、M&Aを果たした後も歩みを止めていません。rimadのM&A後に個人開発で新たなチャレンジを行い、ChatworkのChrome拡張機能型マイクロSaaS「スレッドワーク」の開発に取り組んでいます。
こうした経験を経て、業務委託の活用を検討している担当者・経営者に向けて、こう話します。
大事なのは、業務委託を使う前に自分のディレクション力を高めることです。何をお願いしたいのかを言語化して、期待値をしっかりすり合わせる。それができれば、プロはきちんと動いてくれます。丸投げするのではなく、設計した上で渡すことが大事です。(大野氏)
正社員ゼロ・業務委託パートナーとの協働で2億円超のM&Aを実現した大野氏の実践内容は、プロ人材の活用を模索する担当者にとって、確かな道標となるでしょう。
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本記事は2026年6月に実施した取材をもとに構成しています。取材情報は同時点のものです。
本記事で紹介した成果は取材対象企業固有のものであり、すべての企業に同様の効果を保証するものではありません。

