HPリニューアル、SEO、YouTube、LinkedIn、交通広告――。年収1,000万円~3,000万円の求人を主に扱う人材紹介会社タイグロンパートナーズ株式会社(以下、タイグロンパートナーズ)では、現在複数のマーケティング施策が並行して展開されています。
新規お問い合わせ数は、月200件を超えるようになりました。(小川氏)
そう語るのは、同社でマーケティングを一人で担う、小川晃一氏(シニアマーケティングディレクター)です。富士通でのプロダクトマーケティングを皮切りに、パーソルホールディングス、PwC Japanで培ったマーケティング知見を、ハイクラス人材紹介の領域で生かすべく、同社初の専任マーケターとして約2年前に入社しました。
マーケティング戦略における5つの柱を1人で動かしながら、認知と集客を大きく伸ばす――。その裏側にあったのが、業務委託メンバーを積極的に活用した体制づくりでした。小川氏はどのように外部パートナーとの体制を組み立て、成果へとつなげていったのでしょうか。

入社直後に直面した、マーケティングの構造的課題
タイグロンパートナーズは、外資金融専門のヘッドハンティング会社として設立され、約20年の歴史を持つ企業です。近年はコンサルティング・製造、CxO・社外役員といった領域へと事業を拡張し、在籍コンサルタントの人数はここ数年で約3倍にまで増えています。
会社の拡大とともに、ブランディング・マーケティングの強化が急務となる中、同社初の専任マーケターとして入社したのが小川氏でした。しかし入社直後の小川氏が直面したのは、既存システムや社内リソースの制約、既存ベンダーとの契約やKPI設定といった、簡単には解決できない構造的な課題だったのです。
「成果指標が曖昧な1年契約」で身動きが取れない
当時のタイグロンパートナーズでは、自社HP運用やSEO記事制作など、さまざまな業務を外部パートナーへ依頼していました。一方で、それらを統括する専任担当はおらず、代表やコンサルタントが本業の傍ら窓口を担っている状態だったといいます。
そこで小川氏はまず、方針・施策・体制の各観点を含むマーケティング全体像のAsIs/ToBeを整理。中長期視点で費用対効果を試算した上で、あるべき姿を念頭に既存ベンダーとの契約や役割を見直していきました。
まずベンダーさんと、どんなゴール設定で動いているのかのキャッチアップを進めました。すると、KPIの握りが甘く、成果が見えにくい状態。それにもかかわらず、ほぼすべての契約が「1年契約」という長期の縛りで、身動きが取れない状況でした。(小川氏)
「成果指標が曖昧な長期契約」は、新たな戦略へスピード感を持ってシフトしたい小川氏にとって、大きな足かせとなっていました。
SEOが集客のコア、ただ成果創出まで時間がかかる
課題はそれだけではありません。外部プラットフォームに依存しない中長期的な集客基盤を築くため、小川氏は「SEO施策」を戦略の軸に据えると決めていました。
ところが当時、自社HPには開発言語にシェアの低いコードである「Ruby」が用いられており、一部にしかCMSが入っていませんでした。CMSがない箇所はRuby対応エンジニアへの依頼が必要で、軽微な改修にも1人日10万円近くのコストがかかっていました。SEO対策のために新たな施策を実行したくても、容易にはできない状況だったのです。
集客の軸は間違いなくデジタルマーケティングで、SEOを戦略の軸に据えることは決まっていました。しかし、現状のままでは時間もコストもかかりすぎます。思い描いた施策を実現するには、まず自社HPのフルリニューアルを行う必要がありました。(小川氏)
HPを根本から作り直すとなれば、開発期間に加え、SEOの効果が数字として現れるまでのリードタイムも必要です。すべて合わせると、目指す成果が出るまでに1年以上はかかるだろうという長期戦になることが予想されました。
「短期」と「中長期」を同時に動かす戦略設計
そこで小川氏は、施策を「短期」と「中長期」という時間軸で整理します。半年で自社HPフルリニューアルを完了させる計画を進めながら、同時にYouTube/LinkedInを立ち上げ、交通広告も積極的に展開していくという戦略です。
SEOは絶対にやらなければなりませんが、自社HPのリニューアル期間も含めて、成果が出るまでには時間がかかります。ですから足元では、短期間で成果が見込める施策にも同時に着手する必要がありました。それが、YouTubeとLinkedIn、交通広告でした。(小川氏)
YouTubeとLinkedInでは、ターゲット領域である「金融・コンサルティング・CxO」に関するコンテンツを次々と発信。一方オフラインでは、ターゲットとなるビジネス層が利用する大手町駅をはじめとする都内主要駅で、インパクト重視の交通広告を展開しました。短期・中長期の施策を同時に走らせることで、1年後に確実かつ継続して成果を出す仕組みの構築を目指したのです。
社員と業務委託チームがシナジーを生む体制づくり

これまでの経験から、SEOのような自身の経験が浅い領域は、その道のプロに任せるのが良いと考えており、体制構築において重視したのは、PM工数の削減と、各施策でシナジーを生むための設計です。
発注を集約して、PM工数を最小化する
小川氏はまずYouTubeの立ち上げにあたり、自社の戦略にマッチする実績を持った外部のフリーランス人材にチャンネル運用を依頼。この出会いが、体制づくりの大きな転機となります。
そのYouTube担当者が所属していたのは、マーケティング領域に特化した業務委託メンバー(フリーランス)を束ねるエージェント企業でした。自社HP制作やSEO、SNS運用など、各領域の業務委託メンバーをアサインできるサービスを提供しています。
当初はHPリニューアルやSEOについて、5社ほどでコンペや見積依頼を行っていました。しかし、施策ごとにベンダーを分けると連携が難しくなることがわかり、最終的に同エージェント企業へ全施策を一括発注することにしました。(小川氏)
1人のマーケターが複数の業務委託メンバーやベンダーをバラバラに発注すると、管理工数が膨らむ上、施策間の連携が円滑にいかず「成果が出ない」というリスクも生まれます。発注先を一つのチームに集約することで情報が一元化され、小川氏がハブとなって何度も同じ説明をする手間も省く体制を整えました。
各施策へ横展開し、シナジーを生む設計に
発注先を集約したもう一つの大きな狙いは、一度制作した質の高いコンテンツやノウハウを他チャネルへ連動させ、施策間で大きなシナジーを生み出すことにありました。窓口を一本化したことで、各領域を担当する外部パートナーの間に共通の文脈が生まれ、YouTubeチームが中心となり、自社HP開発やSEO戦略のチームともスムーズに連携できるようになったといいます。
さらに小川氏は、YouTube動画をメルマガの配信にも連動させ、相乗効果を狙いました。
動画に連動させてメルマガ配信を行うため、メルマガはあえて自社で内製化しています。生成AIも活用しながらHTMLコードを書き、YouTube動画を中心とした内容とすることで、平均30%前後の開封率を維持しています。(小川氏)
加えて、当初SEO施策の延長で実施したフォーム改善施策(EFO)も、YouTube、LinkedInやメルマガの導線においても効果を発揮。結果として、YouTubeを起点に自社HP・SEO・LinkedIn・メルマガが同じ世界観でつながり、認知拡大と集客強化を最大化する理想的なシナジーが確立されたのです。
業務委託メンバーの選定基準と、リスクを抑える契約
業務委託メンバーの選定では、「オンラインでのやり取りが多いからこそ、レスポンスの速さや言葉遣い、細かい配慮といったコミュニケーション能力が、アウトプットの品質・スピードに直結する」と小川氏は考えているといいます。
さらに、これまでの経緯を踏まえて「最初の契約期間は短く設定するべき」だと小川氏は語ります。
いざやってみたら、お互いうまくいかなかった、ということは正直あると思っています。ですから、まずはお試しという形で2ヶ月くらいご一緒して、お互いの仕事の仕方がわかるような期間を設けるようにしています。(小川氏)
これは、小川氏の施策への向き合い方とも一致しています。資料を作り込んで議論を重ねるよりも、まずはやってみてPDCAを回す。業務委託メンバーの選定も同じ発想で、短いサイクルで試しながら精度を上げていく――それが小川氏のやり方です。
そうして体制が整った現在、小川氏が直接やり取りする業務委託メンバーは5名。あえて間にディレクターを挟まず、小川氏自身がYouTubeプロデューサー、自社HP運用保守エンジニア、SEOコンサルタント、SEO記事制作メンバー(2名)と直接連携し、それぞれの役割を明確に分けて運用しています。社内では代表に随時レポートし、社内SEとも連携。兼務メンバー2名(各30%稼働)が社内側を支え、プロジェクト横断の相談や課題が発生した場面では、エージェント企業の窓口担当者がフォローに入る建付けです。
<タイグロンパートナーズ株式会社のマーケティング部門体制図>

組織の安心感と、フリーランス特有の「機動力」
複数の業務委託メンバーを束ねる上で、万が一のセーフティネットとしてエージェント企業の存在は欠かせませんでした。日々の実務では各メンバーと直接やり取りを行うため、特有の難しさもあったと小川氏は振り返ります。
フリーランスの方々は、稼働時間やコミュニケーションのスタイルが個々人で大きく異なります。企業対企業のような平日・定時ベースでの進行が難しい場面や、個人の裁量に委ねられているがゆえの戸惑いも、正直ありました。(小川氏)
しかし、この枠にとらわれない「フリーランスならではの働き方」こそが、プロジェクトを成功へ導く最大の武器でもありました。柔軟に動けるフリーランスの機動力を最大限に引き出しつつ、プロジェクト横断の相談や課題発生時にはエージェント企業がサポートに入る。この「いいとこ取り」の環境が、1人マーケターである小川氏の戦略を強力に推進する原動力となりました。
複数施策が連動し、問い合わせ数は10倍・200件超に
体制が整い、思い描いていた各施策が動き始めると、それぞれが着実に成果を生み出していきました。
YouTubeでは、公開して最初の1ヵ月で自社HP経由の問い合わせ数が2倍に。並行してLinkedInでYouTubeショート動画を投稿するようになってからは、フォロワーが急増したといいます。LinkedIn上でのYouTube動画やSEO記事の活用は、同社の認知向上にもつながり、コンサルタントが候補者にメッセージを送った際の返信率、ひいては面談率の向上にも寄与しました。
また、自社データベースに対するメルマガでの掘り起こしでも、動画コンテンツが効果を発揮。それまではメルマガを出したくても、コンテンツ企画・制作のリソースや工数が確保できない状態だったところ、動画資産を起点に運用が回り始めました。
さらに交通広告では、「あの会社、知ってる」と記憶に残ることを意識したインパクト重視のビジュアルを打ち出し、「看板を見ました」という声がコンサルタントへ届くように。YouTubeだけではリーチできなかった候補者層の獲得にもつながっています。
通常であれば半年から1年はかかると言われる自社HPのフルリニューアルも、フリーランス特有の機動力もあって、開発期間6か月でリリース。課題だったSEO施策をリリース時に実装、継続的にコンテンツを公開したことで、リニューアル後1年後には、セッション数は約5倍まで伸びています。
こうした複数施策の積み重ねにより、小川氏が入社する前は月20件ほどだった新規問い合わせ数は月200件を超える水準に到達。マーケティング活動から数十件におよぶ成約案件が創出され、単年ベースで投資回収できる結果となっています。自社HP・SEO・YouTube・LinkedIn・交通広告――。それぞれが相乗効果を生み、成果として結実したのです。
業務委託活用が、マーケティングと全社成長の鍵に
小川氏はもともと、大手企業で各領域の専任担当者や大手広告代理店の担当者がいる潤沢なリソース環境のもと、マス広告や大規模イベント、リード獲得プロジェクトのPMなどを中心に担当してきました。そのため、自社HPの構築やSEO、SNS運用といった業務は、あまり経験のない領域だったといいます。だからこそ、自身にノウハウがない領域はプロの力を借り、やり取りを重ねながら学んでいく。外部パートナーとの協働が、1人マーケターとしての視野を広げてくれたと小川氏は振り返ります。
業務委託の活用は、社員だけでは実現できなかったことを可能にし、そして最短で達成するための、必要不可欠な方法です。内部事情を考慮した戦略のコアは社員がしっかり押さえた上で、外部知見をどう活用してプロジェクトをリードするか――。それが外部活用における成功のカギだと思っています。(小川氏)
マーケット分析、ターゲット・メッセージ策定、予算配分、ゴール・KPI設定、自社HPのリニューアル方針やYouTubeチャンネルの全体企画、施策の優先順位など、自社の事業理解に基づいた「戦略のコア」を、小川氏自身がしっかりと握る。そのブレない軸があるからこそ、外部のスペシャリストたちが力を発揮するべき方向を見失わずに、自社が求める成果へと向かっていけるのです。
1人マーケターという立場には、どうしても物理的なリソースの限界があります。しかし、自社のコアをしっかりと握った上で外部人材の力を活用すれば、その限界を超えて施策の幅を広げ、最速スピードで目的地に到達できます。外部パートナーとの協働は、1人マーケターの可能性を最大化し、ひいてはマーケティング全体、そして全社成長のカギとなるはずです。
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本記事で紹介した成果は取材対象企業固有のものであり、すべての企業に同様の効果を保証するものではありません。取材情報は2026年6月現在のものです。

