正社員の育成が間に合わない。でも、目の前の受注は待ってくれない――。人材を採用・育成し、現場の戦力となるまでには、どうしても一定の時間がかかります。事業が急拡大するフェーズにおいて、この「待ち時間」は深刻な機会損失を生み出しかねません。
独自のマネジメント理論「識学」を用いた組織コンサルティングを展開する株式会社識学で、顧客向けの採用支援サービスを牽引する進藤千恵氏もまた、事業の急成長に伴う「リソース不足」という壁に直面していました。そこで打開策として選んだのが、業務委託という即戦力の活用です。
結果として、事業の成長スピードを落とすことなく、目標となる前年比1.5倍の成果を実現。並行して正社員の採用・育成も進みました。さらに、外部のプロフェッショナル人材と協働したことで、自社メンバーの業務基準が引き上がり、組織全体のノウハウ蓄積にもつながったといいます。
属人的になりがちな業務委託の活用において、識学ならではの徹底した「ルール化」や「結果の見える化」はいかにして機能したのか。サービスの品質を担保しながら事業拡大を実現した、業務委託活用の裏側に迫ります。

採用コンサルティング事業の急拡大で直面した壁
株式会社識学は、独自のマネジメント理論「識学」を用いた組織コンサルティングを展開しています。進藤千恵氏が所属するHRソリューション部では、この理論を自社の採用戦略に応用。新卒・中途採用で高い成果を上げたノウハウを「識学流」の採用メソッドとして体系化し、採用課題を抱える顧客へ「採用制度構築」サービスとして提供しています。
コンサルタントによるトレーニングから採用実務の代行、マニュアル作成までを網羅し、顧客が自律的に採用活動を行うための「仕組み化」を支援するコンサルティング事業です。
この新規事業は立ち上げ直後から、想定を上回るスピードで急拡大しました。そこで立ちはだかったのが「リソースの枯渇」と「専門スキルの不足」という壁でした。
通常、この採用制度構築のサービスでは、以下の3名体制で顧客を支援します。
<採用制度構築の支援体制>
・プロジェクトマネージャー:戦略立案と意思決定を担う責任者
・採用マーケター:市場調査や母集団形成など
・採用アシスタント:応募者への即時対応など
専門特化した3名体制を組むことで高品質なサービスを実現していた一方で、1人あたりの対応社数には物理的な限界があります。事業が成長するにつれ、「目の前に受注があるのに、リソース不足で対応しきれない」という状況が発生し始めたのです。
「正社員ではなく業務委託」という意思決定の理由

進藤氏が業務委託の活用を始めたのは、採用コンサルティング事業の立ち上げから約1年が経過した頃でした。事業拡大に伴い、成果目標は従来の1.5倍へと急上昇。「今のスピード感のままでは、目標達成に間に合わない」という危機感が、意思決定のきっかけとなりました。
もちろん、事業成長に合わせて正社員の採用も並行して強化していましたが、そこには「時間」の壁があったといいます。
正社員の採用活動に始まり、入社後の教育カリキュラムを経て独り立ちするまでには、早くても約8ヵ月の期間を見込んでいます。当時の事業拡大スピードを考えると、それだけの期間を待つことはできませんでした。(進藤氏)
さらに、サービス拡充に向けた専門スキルの不足も課題でした。顧客支援の一環として「採用ページ制作」の提供を構想していましたが、社内にWeb制作の専門家はいません。
専門人材を正社員で採用する場合、高年収帯の人材を複数名確保する必要があり、年度内の予算を鑑みると、すぐに実現できる選択肢ではありませんでした。(進藤氏)
そこで目を向けたのが、即戦力となる業務委託の活用です。優秀な外部パートナーとの連携に加え、識学ならではの人材活用術が功を奏し、結果、わずか2ヵ月という短期間で、事業拡大に耐えうる体制を構築することに成功しました。売上の変動に合わせて人件費をコントロールできる「変動費」として運用できたことも、事業拡大の段階においては大きなメリットとなりました。
業務委託活用における2つの戦略的ポイント
識学における業務委託の活用は、単なる「工数削減」や「コストカット」が目的ではありません。事業を加速させるパートナーとして、「体制強化」と「サービス拡充のリソース確保」という2つの文脈で戦略的に運用しています。
1. 受注増加に対応する「体制強化」
プロジェクトマネージャー・採用マーケター・採用アシスタントという3つの支援役割について業務委託を活用し、受注増に即応できる体制を構築。サービス品質を担保するための共通基準のもとで、各役割の成果物を納品いただく形をとっています。
パートナー選定の成否を分けたのは、人材紹介会社との深い連携です。進藤氏が信頼を寄せる人材紹介会社の代表に対し、あらかじめ識学のロジックや求める業務水準・遵守事項を詳細にレクチャー。プロの「目利き」に自社の期待値を落とし込むことで、選定にかかる工数を抑えながら、ミスマッチのないパートナーとの契約に成功しました。
2. 未保有スキルを補う「サービス拡充のリソース確保」
「採用ページがなければ採用市場で戦えない」と提唱しながらも、社内に制作リソースがないという課題に対し、Web制作スキルを持つ業務委託を活用しました。
内製できない専門業務を外部に切り出し、スピーディーにサービス化したことで、コンサルティングの付加価値が向上し、サービスの魅力強化に直結しました。現在もWeb制作については業務委託の活用を継続し、柔軟なリソース確保を行っています。
これら2つの文脈で業務委託を活用した結果、急増する受注を取りこぼすことなく、支援内容も拡充。事業は拡大を遂げ、立ち上げ2年目で目標達成へと至りました。
成功のカギは「識学流」業務委託活用

業務委託の活用を成功させた背景には、「ルール化」や「結果の見える化」といった識学ならではの人材活用術がありました。参考にしたい3つのポイントを紹介します。
「いつでも・誰でも見られる場所」へのルール明文化
業務委託の稼働開始に先立ち、進藤氏がまず取り組んだのは、スプレッドシートへのルールの明文化です。例えば、Zoomの指定背景から、Slackでの顧客宛メッセージの敬称表記、顧客に連絡可能な時間帯に至るまで、サービス品質を一定に保つために必要なルールを整理したといいます。
お客様に一貫したサービスをお届けするために、必要なサービス品質基準を設定しました。何かあった際に「ルールを知りませんでした」とはならないように、いつでも誰でも確認できる状態を作ることが大前提でした。(進藤氏)
週次目標による結果の見える化で歩留まりを早期にアラート
業務委託契約においても、委託する業務の成果物を明確に定義しています。採用マーケターなら「母集団形成数」、採用アシスタントなら「面接設定率」といったように、役割ごとの目標を数値で設定しました。
週次・月次・プロジェクト単位の進捗を数値で追える環境を整えることで、感覚ではなくデータでパフォーマンスを判断できるといいます。
採用分野のプロフェッショナルである業務委託の方にとっても、達成基準が明確なほうが働きやすいようです。(進藤氏)
窓口の一元化によるコミュニケーションロスの排除
現場に迷いや不要なコミュニケーションコストを生じさせないため、チーム体制の一元化を徹底しました。万が一ミスやパフォーマンスの低下が生じた際は、紹介元企業の代表者に窓口として改善要請を行う運用としています。自社メンバーが個別に指導せず、窓口を集約することで、迅速な軌道修正と品質管理を両立させました。
また社内においても、「正社員の教育」と「業務委託の窓口担当(進藤氏)」の役割を明確に分離。他のメンバーが委託先とのやり取りに直接関わらない仕組みにすることで、不要な業務負荷やコミュニケーションロスを未然に防いでいます。

外部人材がもたらした「社内基準の引き上げ」
業務委託メンバーの多くは、他社で豊富な実務経験を積んできた採用のプロフェッショナルです。彼らがプロジェクトに参画したことは、単に不足していた労働力を補うという以上の価値をもたらしました。
例えばわかりやすい事例だと、採用エージェントのリストアップ数における「基準値の差」があったといいます。
事業立ち上げ当初の基準としては、採用エージェントを利用する際、4~5社程度のリストアップで十分だと考えていました。しかし、参画した業務委託の採用マーケターは、一気に20社以上のリストを作成してくれたのです。これまでの自分たちの基準では足りていなかったと痛感させられると同時に、自社メンバーの基準値が一気に引き上がる良いきっかけになりました。(進藤氏)
外部人材が持つノウハウが自社メンバーの成長を促すことも、業務委託を戦略的に活用するメリットだといえます。
新規事業の助走を最速にする、戦略的なリソース配分
業務委託の活用開始から約2年が経過した現在、並行して進めていた正社員の採用と育成が実を結び、現場は徐々に正社員が中心の体制へと移行しつつあります。しかし、リソース不足の期間を乗り越え、事業を大きく飛躍させた手応えは明確です。
新規事業の立ち上げなど、新たな領域へ一気にリソースを集中させるタイミングで業務委託を活用し、徐々に正社員に移行していく。今回はその理想的なサイクルを作ることができました。今後またリソースが追いつかない状況に直面しても、迷わず業務委託という選択肢を活用できる。そう確信しています。(進藤氏)
組織のルールを明確にし、役割を切り分け、プロ人材の力を最適なタイミングで投入する――。たとえ正社員採用が難しい状況下でも、適切な設計さえあれば事業は確実に前に進みます。
必要なスキルを柔軟に取り入れ、強固な組織をつくる進藤氏の実践は、採用難と成長のジレンマに悩む多くの企業にとって、再現性の高いソリューションとなるはずです。
---
本記事で紹介した成果は取材対象企業固有のものであり、すべての企業に同様の効果を保証するものではありません。取材情報は2026年5月現在のものです。

