多様な人材活用で「戦略に集中できる組織」へ。ナイル福田氏が語る分業設計と人材活用のリアル

著者:戸島笑美子
事業が成長するほど、対応すべき業務は増え、人手が追いつかなくなる――。「事業拡大のためには、正社員を増やさなければ」と感じているマネジメント層は少なくありません。

しかし、アルバイトや業務委託といった多様な人材を適切に配置し、限られたメンバーで成果を最大化している企業も存在します。

ナイル株式会社 自動車産業DX事業部(以下、MDX事業部)で事業CMOを務める福田士朗氏も、その一人です。

広告運用を担うチームにおいて、アルバイトなどの多様な人材を採用することで、業務の自動化や戦略に集中できる組織を実現。判断スピードの向上や新規施策の創出につなげています。

福田氏の取り組みから、適切な役割分担で多様な人材の力を引き出し、事業成長へとつなげるマネジメントのポイントを紐解きます。
ナイル株式会社福田氏が多様な人材活用で得られたこと
1.戦略などコア業務に集中出来る時間が増える
2.レポーティングの自動化で判断スピードが向上
3.余白の時間でAIを活用したシステム開発が実現
4.想定以上の活躍で別事業の作業自動化も進行中
目次

事業CMOの役割と広告運用チームの体制

ナイル株式会社のMDX事業部では、カーリース・買い取りなど、複数の自動車関連サービスを展開しています。福田氏は、サービスの集客全体を統括する事業CMOとして、戦略設計から実行管理まで幅広く担っています。領域としては大きく以下の3つです。

<集客に関する3領域>
・広告集客
・広報・オーガニック集客
・サービスサイトの保守・運営

中でも広告集客における広告運用チームの体制は、正社員3名とアルバイト2名というミニマムな構成をベースに、制作部門や他領域のメンバーと連携して運用されています。この少人数体制の背景にあるのは、福田氏の「あえて組織を大きくせず、役割を明確に分けることで効率的に運営する」という考えです。

人が増えるほど、マネジメントや評価にかかる負荷はどうしても高くなります。定常的な業務を切り出せるなら、正社員だけで抱え込む必要はありません。アルバイトや業務委託など、多様な働き方のメンバーと役割を分担することで、チーム全体がそれぞれの強みに集中でき、スピーディーな運営が可能になります。(福田氏)

チーム体制見直しの背景――増え続ける定常業務

広告運用チームでアルバイト人材を採用した背景には、定常業務の増加という課題がありました。

Google・Yahoo!・Facebook・Instagramなど複数の広告媒体を運用するなかで、自動化できない手作業の集計業務が増加していました。毎朝の数値チェックや不具合検知、虚偽申込みのフィルタリング、CRMデータと突合した契約進捗のレポーティングなどがその例です。

当時は、こうした定常業務をすべて正社員が担っており、レポーティング作業に午前中が費やされ、本来注力すべき戦略設計や施策の実行などに時間を確保できない状況が続いていました。
ナイル株式会社 福田士朗氏

朝の時間は本来、今後の戦略を考える時間として使いたいと思っています。しかし当時の広告運用チームのメンバーは、前日のデータのレポーティング業務に追われ、事業を成長させるためのコア業務に手が回りませんでした。(福田氏)

この状況を打開するため、アルバイト2名を採用し、広告運用業務の切り出しと役割分担を実施しました。定常業務を専任で担うメンバーが加わったことで、チーム全体の時間配分が改善され、それぞれが自分の役割に集中できる体制が整いました。

「難度」ではなく「性質」で分ける、役割分担の設計

業務の切り出しと役割分担に際して、福田氏が重視したのは、業務の「難度」ではなく、再現性や判断の余地といった「性質」で分けることでした。例えば、戦略設計や新規施策の企画など、状況に応じた判断や試行錯誤が求められるコア業務と、手順化・標準化が可能で定常的に発生する業務、という分担です。

<コア業務の例>
・戦略設計、中長期プランの策定
・新規媒体の調査や検証
・キャンペーンなどの施策の企画
・新規プロジェクトの起案と実行

<定常的な業務の例>
・データ集計、レポーティング
・定常的な運用業務(指名検索の除外設定、検索状況のチェックなど)
・サポート業務全般
ナイル株式会社の広告運用チームの体制
多様な人材を採用する際には、例えば、高い専門性を期待して高難度の業務を任せようとするなど、「難度」を基準に役割を考えてしまいがちです。しかし、難度で判断すると、業務の切り出し方が適切でなく、人材の特性を十分に引き出せないほか、期待とのミスマッチが生じる要因にもなるといいます。

多様な人材活用で成果を出す3つのポイント

アルバイトなど多様な人材の力を最大限に引き出すには、どのような工夫が必要なのでしょうか。福田氏の実践から、成果につながる3つのポイントが見えてきました。

即戦力の専門スキルだけでなく、基礎スキルを見極める

アルバイトの方に担当いただく業務は、手順化・標準化が可能で定常的に発生するものが中心です。そのため、採用時点で広告の専門スキルは求めていません。それよりも、チームと円滑にコミュニケーションが取れるか、安定的に業務に取り組めるかといった基礎的な部分を重視しました。(福田氏)

具体的には、採用面接でのやりとりに加え、過去の職歴からコミュニケーションや調整を伴う業務の経験があるか、また一定期間継続して業務に取り組んだ実績があるかといった点を確認し、判断しているといいます。

「なぜその働き方を選んでいるか」という背景を理解する

多様な人材と協働するとき、福田氏が最も大切にしているのが「なぜその人がその働き方(正社員・アルバイト・業務委託)を選んでいるのか」という背景の理解です。それぞれに個別の事情や考えがあると福田氏は語ります。

ご家庭の事情や心身の状況、自分に合った働き方の選択など、多様な背景を持つ人材に対して、事情や価値観を踏まえた上で業務設計を行うことが重要です。例えば、朝の時間は働けない方に「朝イチでレポートを回してほしい」と依頼してしまうと、ミスマッチが生じます。一方で、業務に支障がなければ、事情に合わせた柔軟な設計は十分に可能です。(福田氏)

相手の背景を理解し、お互いにリスペクトを持って関わる。こうした積み重ねが、優秀な人材との継続的な関係構築につながっています。

業務範囲を固定せず、スキルに応じて柔軟に広げる

依頼する業務をあらかじめ限定せず、相手のスキルに応じて内容を調整していくことも、多様な人材に最大限活躍してもらうための重要なポイントです。福田氏は、アルバイト人材が利用できるツールやアクセス可能なデータベースについても、必要に応じて権限を拡張しながら、柔軟に業務の幅を広げているといいます。

レポーティング業務を依頼していたアルバイトの方が、想定以上のスキルを持っており、AIツールを活用してデータ集計からレポーティングまでを自動化してくれました。現在では、毎朝ボタンを一度押すだけでレポートが出力され、不具合の検知まで行えるようになっています。その結果、空いた時間を使って、現在は別事業の作業自動化といった新たな業務にも取り組んでもらっています。(福田氏)

人材活用が生んだ最大の変化は「思考の余白」

アルバイト人材の採用と、そこから生まれた自動化の恩恵は、「作業時間の削減」にとどまりません。福田氏が最大の変化として挙げるのは、「思考の余白」が生まれたことです。

ルーティン業務から解放されたことで、以下のような好循環が生まれました。

<アルバイト人材の採用で生まれた好循環>
・判断スピードの向上:
レポーティングの自動化により、契約の進捗状況がリアルタイムに可視化され、リードの質の見極めや契約判断を迅速に行えるようになった。

・中長期戦略の検討時間の確保:
プレイングマネージャーとして後回しになりがちだった中長期の戦略策定に、意識的に時間を割けるようになった。

・新規施策(AI活用など)への投資:
新たなスキルの習得や研究に時間をあてられるようになり、事業成長の「種」を生み出す土壌が整った。

実際に福田氏は、この「思考の余白」を活用し、営業の通話ログ(会話のテンポや内容)をAIで解析。顧客の成約確率をスコアリングして優先順位を付ける仕組みをみずから開発するなど、新たな取り組みを次々と進めています。

新規事業こそ多様な人材と協働すべき理由

福田氏によると、業務委託やアルバイトなどの多様な人材との協働が特に有効なのは、新規事業の立ち上げ期だといいます。実際に、MDX事業部が運営する「カーリースカルモくん」の立ち上げ初期においては、各領域の専門家をプロジェクト型で集め、業務委託メンバーが中心の体制で推進していました。

その背景にあるのは、新規事業特有のスピード感と不確実性です。新規事業では、フェーズごとに必要なスキルが変わり続けます。そのたびに正社員を採用していては育成に時間がかかり、スピードが落ちてしまうでしょう。一方、業務委託であれば、その領域のプロを即戦力としてアサインできるため、立ち上げを一気に加速できます

新規事業はどんなスキルが必要かも走りながら見えてくるものです。だからこそ、必要なフェーズで該当するプロに任せるほうが早い場合も多くあります。(福田氏)

チーム全体で役割を分かち合い、それぞれが強みを発揮できる体制を築くことで、事業を動かすスピードは確実に上がります。福田氏が実践する「余白を作り、未来へ投資する」サイクルは、人員不足や業務過多に悩む多くの組織にとって、大きなブレイクスルーのヒントになるはずです。

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本記事で紹介した成果は取材対象企業固有のものであり、すべての企業に同様の効果を保証するものではありません。取材情報は2026年4月現在のものです。
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旅行ガイドブックの出版社にて、国内旅行情報誌や登山ガイド、趣味の書籍の編集・制作を担当した後、旅行・介護・食業界のオウンドメディアにて編集業務を経験。
わかりやすいだけでなく、読者の次のアクションにつながるようなコンテンツ制作を心掛けている。