マーケティング組織の立ち上げは、いつも十分な人手から始まるわけではありません。
たった1人で始まることも多く、「事業が求めるスピードにとても追いつけない」――その壁にぶつかる瞬間は、事業が拡大していく上で必ず訪れます。しかし、人手が足りないからといって、施策の手を止めるわけにはいきません。
株式会社Hajimari(以下、Hajimari)は、多様な領域でフリーランス人材と企業のマッチングサービスを展開する企業です。
IT領域の「ITプロパートナーズ」を始め、マーケティング領域の「マーケティングプロパートナーズ」、経理領域の「ファイナンスプロパートナーズ」、人事領域の「人事プロパートナーズ」と、数々の領域で展開しています。
そんな業務委託活用のプロともいえるHajimariは、自社でどのように業務委託を活用しているのでしょうか。
当初、業務委託を含めて3名しかいなかったマーケティングチームを、全26名の組織へと拡大し、SEO経由のトラフィックは2.5倍、広告の最終成果7.2倍、商談数2.3倍と大きな成果を上げている小川智裕氏にお話を伺いました。

「1人目正社員マーケター」としてのスタート

新卒で家庭教師派遣会社に入社してから、一貫してマーケティングのキャリアを歩んできた小川氏。転職活動を始めたタイミングで登録した「ITプロパートナーズ」が、Hajimariとの出会いのきっかけとなりました。
フリーランスの「呼び込み」から、正社員へ転換
小川氏とHajimariとの最初の接点は、「ITプロパートナーズ」のエージェントとの面談でした。しかし、そこで声がかかったのは、正社員としての転職ではなく、フリーランスとしてのスカウトだったといいます。
最初は転職というよりも、フリーランスとしてスカウトされたんです。エージェントと話す中で「実はHajimariでもマーケターを探しているんですよ」という話になり、興味を持ちました。(小川氏)
その後、2019年9月から業務委託で稼働期間を経て、翌2020年1月に正社員として入社。入社当時のHajimariには、専任のマーケターは他に誰もおらず、いわゆる「1人目マーケター」として参画することになりました。
広告・オウンドメディアの運営と予算獲得に奔走した1年間
小川氏の入社当時、体制は小川氏と業務委託2名を含めた3名体制でスタートしました。
2名の業務委託人材がそれぞれ広告とオウンドメディアの運用を担っていましたが、オウンドメディアを担当していたメンバーが数ヶ月後に離脱。小川氏は、そのメンバーが担っていたオウンドメディアのSEO業務を直接引き継ぐことになります。
SEOを引き継いだ小川氏がまず直面したのは、競合サイトの増加による記事品質面での見劣りと、それに伴う流入の減少でした。Googleからペナルティを受けるリスクや、ユーザーの検索意図の変化に応じて上位表示されやすい記事の傾向が変わってきていたことも重なり、新規記事の作成に加えてリライトを進めていかなければなりません。
しかし、当時の体制でそれを実現するのは非現実的でした。
SEOを引き継いで「これは相当きついな」と感じました。このまま流入の減少が続けば、半年後、1年後には売上にも影響しかねません。徐々に自分自身の解像度も上げながら、具体的な数字を示して伝え続けました。(小川氏)
そうした地道な訴えの積み重ねの末、人員は少しずつ増えていきます。
専門人材の合流と専門領域への展開
小川氏に転機が訪れたのは、2021年頃のことです。
当時は競合との顧客の獲得競争が激化する中、CPAを維持しながらCV数を増やすことに苦戦。さらに「プロパートナーズ」シリーズの展開で新規サービスが複数立ち上がっていく中で、マーケティング組織の拡大は急務でした。
そこで、必要な専門人材を迎え入れていくことになります。
役員クラスのオファーを辞退、まるで上司のような業務委託の参画
2021年頃、Hajimariはマーケティング組織を統括できる役員・戦略責任者クラスの正社員人材も探していました。その候補として声をかけた人物から返ってきたのは、意外な返答でした。
初めは、役員・戦略責任者クラスとして正社員でのオファーでした。ところが、その方が「役員にはならない、業務委託なら」と希望されたので、業務委託として参画いただきました。(小川氏)
この人物は、小川氏の上司のような立ち位置で、戦略や方向性を一緒に考えながら、広告のモニタリング環境の構築など、それまで小川氏一人では手が回らなかった領域の戦略を主導しました。(Hajimariでは、この方のポジションを「上司代行」と呼んでいます)なお、同じタイミングで、SEO領域を専門とするプロ人材も合流しています。
新たな課題ごとに、専門人材を追加
さらに、小川氏の入社当初は「ITプロパートナーズ」のみだったところから、「マーケティングプロパートナーズ」「ファイナンスプロパートナーズ」「人事プロパートナーズ」などへと事業の横展開が進みました。
これらの事業拡大に比例して、小川氏が担当するマーケティング領域の業務量も増加。小川氏が1人で見切れる範囲を超えているため、人材をさらに増員していく必要がありました。
そこで小川氏は、予算取りの交渉の際は「投資計画」としてまとめる形に変更します。
指名検索やオウンドメディアといった、それぞれのチャネルごとにキーワードボリュームや想定順位、流入数を算出した資産表を作成し、最後はコストを含めた投資サマリーとして上司代行に提出。経営陣へ話を通してもらい、予算を確保していただく流れでした。(小川氏)
こうして得た予算をもとに、自社の「マーケティングプロパートナーズ」を通じて必要なポジションを採用。専門領域ごとの業務委託人材は、事業拡大とともに増員していきました。
業務委託を含めて3名の体制から、全26名のマーケティング組織へ

小川氏の入社当初、社内のマーケティング体制は正社員1名(小川氏)と業務委託2名。そこから現在は、全26名という規模にまで組織が拡大しています。
正社員3名、業務委託23名のマーケティング組織
全26名の組織のうち、正社員は3名で、23名が業務委託・フリーランスのメンバーです。
それぞれ専門分野は異なり、toC・toBの広告運用、toCのオウンドメディアのSEO、toBのウェビナー運営、インサイドセールス、デザイン、クリエイティブディレクション、広報――。担当する業務は多岐にわたります。
SEOはtoC専任の業務委託が2名、加えてオウンドメディアの編集長ポジションや被リンク獲得を担う業務委託人材が1名。一番業務が重かったウェビナーは、小川氏と当時新卒1年目だった社員の2人で立ち上げを担い、現在はtoB領域を担当するフリーランスを新たに採用し、引き継ぎを進めている最中です。
専任制ではなく、小川氏が横断的に統括するスタイル
業務委託の担当は、広告・SEO・ウェビナーといった分野ごとに分かれています。一方で、正社員3名がそれぞれの分野を1人ずつ担当するような分業にはなっていません。基本的な統括は小川氏がすべて担い、ほかの社員は特定チャネルに縛らず、施策・プロジェクト単位で動く形を取っています。
今は基本的に自分がすべて見ていますが、少しずつ権限を任せていこうとしている段階です。正社員のメンバーには施策ベース・プロジェクトベースで動いてもらっています。(小川氏)
正社員の数がまだ少ない今は、小川氏が全体を統括する体制ですが、今後は少しずつ権限移譲も進めていく考えだということです。
<現在の体制図>

業務委託人材の活用が生んだ、3つの成果
専門領域ごとに業務委託人材を迎え入れてきたことで、Hajimariのマーケティングチームには、それぞれの強みを生かした成果が生まれていました。
「編集長ポジション」による立て直しで、トラフィック2.5倍へ
Hajimariが運営する「ITプロマガジン」は、2015年という早い時期に立ち上げられ、長らく多くのキーワードで上位を獲得。しかし、小川氏の入社直後には競合メディアの台頭と、低品質なコンテンツが多く残されたままという2つの課題が重なっていました。
その結果、2020年12月頃からアクセスは急落。月間トラフィックはピーク時から一気に落ち込み、約7万PVという水準まで低下してしまったのです。
この課題に対応するため、2021年、アフィリエイトメディアやオウンドメディアの運営経験を持つSEOのプロ人材を、「編集長ポジション」として招き入れました。この人物がまず取り組んだのは、コンテンツの質の底上げです。
ライターの採用とメディアマニュアルの策定を進め、多い月には約90本ものリライトを実施する体制を構築。その後、トピッククラスターの考え方に基づいた内部リンクの設計を進め、WordPress上でのサイトフルリニューアルにも着手しました。
こうした施策により、一度7万ほどまで落ち込んだ月間トラフィックは、17万近くまで上昇。約2.5倍まで伸長しました。(小川氏)
さらに、アクセス数は2.5倍、登録者数は1.25倍、面談数は1.46倍(登録から面談への転換率も1.16倍)まで改善しました。
Tableauによる可視化で、最終成果7.2倍へ
広告運用では、CPA(顧客獲得単価)が徐々に上昇していく一方で、管理画面上の数値と、最終的な商談・成約への歩留まりが結びついていないという課題を抱えていました。
そこで、上司代行の知見を借り、『Tableau』(現在はLooker Studio)を用いたモニタリング環境の構築に着手。小川氏が可視化したい指標を整理し、構築自体はプロ人材に任せました。
Tableauで追うと、CPAが安いMeta広告は、最終成果への歩留まりが異様に低いことが分かりました。一方で、昔失敗したと言われていたGoogle広告やアフィリエイト広告の方が、最終的なビジネス成果に結びついていることが明確になったんです。(小川氏)
この発見をもとに、広告費を投じる先をGoogle広告やアフィリエイト広告へとシフトしました。
さらに、Hajimariのサービスへの登録フォームで付与する独自のランク(S・A・Bランクなど)をデータとして定義。登録後に面談まで進んだかどうかといった、管理画面だけでは見えない"成果の質"を、Google広告の「オフラインコンバージョン」機能を使って広告側に連携する仕組みも構築しました。これにより、Google広告の自動配信の精度がさらに高まったといいます。
これらの取り組みの結果、広告費1.6倍に対し、最終成果は約7.2倍に伸ばすことができました。
Marketo導入と資料作成をプロに一任し、商談数2.3倍へ
toB向けのウェビナー・インサイドセールス領域では、ハウスリストへアプローチする手段がなく、MAツールすら導入されていない状態が続いていました。そこで、Marketo導入の経験を持つ人物と、外部のMarketo導入コンサル会社が参画。ちょうど入社した新卒1年目の社員は、この方からプロジェクトの進め方や外部コンサルとの連携方法を学びながら、データ整備とMA導入を進めていきました。
最初はメールを送れる状態になって8,000件程度だったリストが、共催ウェビナーや展示会での獲得データも連携したことで、今では約3万件のリストへアプローチできる体制になりました。ウェビナーの資料作成やコンテンツ制作についても、紹介を通じて参画した経営視点を持つ業務委託人材に任せています。(小川氏)
後者については、代表や役員が登壇するウェビナーであってもストーリーをうまくまとめてくれるため、資料作成の大きな負荷が削減されたといいます。
結果として、自社ウェビナーは月2〜4回のペースで定期開催できる体制となり、広告費を増やすことなく、ウェビナー経由を含めた全体の商談数は約2.3倍にまで伸長しました。
雇用形態にこだわらない人材活用が、事業成長を最速で後押しする
企業の成長を遅らせる最大のボトルネックは「何も進んでいない時間」だと小川氏はいいます。
自分たちだけでゼロから試行錯誤するよりも、経験を持つプロに一度入ってもらい、施策を軌道に乗せてから自社メンバーで改善を回していく方が、時間もコストもはるかに節約できます。
雇用形態が正社員かフリーランスかにこだわる必要はありません。必要な機能を、必要なタイミングでスピード感を持って投入できること。それこそが、事業成長のスピードを左右する最大のポイントです。
たった1人からスタートしたマーケティング組織。業務委託人材の力を得て26名規模へと成長したその歩みは、リソースの制約を抱える多くの企業にとっても、一つのヒントになるはずです。
本記事で紹介した成果は取材対象企業固有のものであり、すべての企業に同様の効果を保証するものではありません。取材情報は2026年6月現在のものです。

