採用ゼロ、でも審査通過者は2倍に。ナイル・清水氏が業務委託で実現したナーチャリング戦略

著者:鈴木麻葉
正社員を採用できなければ、事業を回せない——。そう感じている担当者は多いのではないでしょうか。
しかし人員が限られる中でも、業務委託を戦略的に活用することで事業を前に進め、大きな成果を出している現場は確かに存在します。

ナイル株式会社 自動車産業DX事業部(以下、MDX事業部)でリードナーチャリングユニットの責任者を務める清水 拓也氏も、その一人です。
清水氏が担当する「カーリースカルモくん」では、ユーザーが申し込む際に自動車ローンと同様の与信審査があります。清水氏のミッションは、単に申込数を増やすことではなく、「審査に通りやすい見込み顧客の申込みを、ナーチャリングによって最大化させること」。

データの可視化すらできていなかった状態から、業務委託を活用してわずか1年で与信審査の通過者数を月120件から260件へと倍増させるまでの道のりを伺いました。
目次

MDX事業部とナーチャリングユニットの役割

MDX事業部が展開する「カーリースカルモくん」は、月々定額でマイカーに乗れるカーリースサービスです。ユーザーが申し込む際には与信審査があり、審査を通過した方のみが契約に至ります。

集客チャネルは広告・オウンドメディア・ナーチャリングの大きく3つ。ナーチャリングは、広告やオウンドメディアで獲得したリードに対して継続的にアプローチし、申込みへと誘導するチャネルです。

清水氏の役割は、このナーチャリングユニット全体の責任者として、戦略設計・数値管理・施策の意思決定を担うこと。「闇雲に申込みを促すのではなく、審査に通りやすい層を特定し、その層の申込みをナーチャリングで最大化する」という方針のもと、体制の構築から検証サイクルの設計まで一手に担ってきました。

KPIもデータもない現場でのナーチャリング立ち上げ

事業部全体でKPIが統一されていなかった

清水氏がナーチャリングユニットを担当し始めた当初、広告・オウンドメディア・ナーチャリングの各チームがそれぞれ異なる指標を追っており、チーム間での共通認識を作りにくい状況にあったといいます。
当時は、事業部全体に統一のKPIがないことが根底の課題としてありました。そのため担当してからまず取り組んだのは、自身の管轄のデータ整備と可視化でした。その後、広告やオウンドメディアを含めた集客チーム全体で時間をかけてすり合わせを行い、共通の指針を作っていきました。(清水氏)

CRMとWebデータが連携できていなかった

KPIを定めたものの、それを達成するためには「どの経路・どのタイミングでの申込みが、審査通過につながるか」を把握する必要がありました。しかし、その判断に必要なデータ基盤が当時は整っていなかったといいます。

申込みがあっても、それが与信審査の通過につながるかどうかを把握できない状態でした。与信審査はCRM(顧客関係管理システム)上のデータと紐づけが必要で、WebのアクセスデータとCRMのデータを連携させなければ、どの流入経路が審査通過につながっているかを見えていなかったんです。(清水氏)

GA4(Googleアナリティクス4)などのWebアクセス解析ツールでは、申込みの「質」までは追えません。どこに手を打てば審査通過につながるかが見えない以上、施策を改善する手がかりそのものがない状態でした。

この手詰まりの状況を打開するには、データ整備や戦略設計に専念できる体制そのものを作り直す必要がありました。それが、業務委託による分業という選択につながっていきます。

限られた体制での業務委託という選択

清水氏が業務委託を活用し始めた背景には、限られた体制のなかでどう事業を前に進めるかという、現実的な判断がありました。

制約から生まれた業務委託活用という選択

本来、清水氏が専門とするのはデータ分析です。その経験と知見をナーチャリングの戦略設計やデータ分析に活かせる立場にある一方で、メール施策・LINE施策・配信設定といった各チャネルの実行業務もすべて一人でこなすことには、物理的な限界がありました。

一人では物理的に回せないくらいの業務量がありましたし、自分でアクションもしながら分析も戦略も考えるというのは無理に等しかった。どうやったら回るかを考えながら、やらざるを得なかったというのが正直なところです。(清水氏)

そこで清水氏が出した答えが、実行業務を外部に委ね、自分はデータ分析と戦略設計に専念するという役割分担でした。この判断が、業務委託による分業体制の構築につながっていきます。

こうして実行を任せる人材としてナーチャリングユニットに加わったのが、元々MDX事業部のオウンドメディアのコンテンツ編集に携わっていた業務委託のメンバーでした。カルモくんの事業やユーザー像への理解がすでに備わっていたことも、連携をスムーズにした要因のひとつです。

適性の見極めと役割の設計

業務委託の活用にあたって清水氏が重視したのは、適材適所の徹底です。「なんでもできます」という万能型より、特定の領域に強みを持つ人材のほうがパフォーマンスは高い、という考えのもと、各メンバーの得意領域を把握しながら依頼する業務内容を決めていきました。

業務委託の方は、契約内容の中で依頼する業務の範囲を見直していきました。得意領域が見えてきたら継続してお願いし、難しい領域については担当を見直す、という形で進めています。適材適所で案件を割り振ること、そしてなんでもかんでも丸投げしないこと――この2点は特に気をつけています。(清水氏)

こうした判断のもと、現在のリードナーチャリングの実行体制は3名のメンバーで構成されているそう。メール施策・LINE施策・配信設定という各チャネルをそれぞれの担当者が担うことで、施策ごとの検証サイクルを個別に回せる構造になっています。
ナーチャリングは誰に何を任せるかという設計の精度が、そのまま事業コストに響く領域だからこそ、「任せる範囲と成果物の確認の仕組みを丁寧に整えることが、業務委託活用の基本」と清水氏は位置づけています。

「依頼して終わり」にしない協働の設計

適材適所の役割分担と並んで、清水氏が業務委託活用の要と位置づけているのが、コミュニケーションと情報共有の設計です。

週1回の接点で、成果確認と関係構築を両立させる

業務委託メンバーとの連携において、清水氏がもっとも力を入れているのはコミュニケーションの質です。
週に一度、短時間で成果物の確認と情報共有の場を設け、納品内容の状況を把握するとともに、業務の背景や狙いを丁寧に共有しています。

コミュニケーションのカロリーはかなり意識して使っています。成果物の確認だけでなく、プライベートな話をしたり、ご飯に行こうという話をしたりすることも大事にしています。一方的な関係にならないよう、相手の意見を引き出すことを常に意識していますね。(清水氏)

情報共有の場は週に一度設けていますが、そこで扱うのは全員に関わる内容のみに絞り、短時間で完結させています。個別の業務に関わる内容や踏み込んだ意見交換は、別途1対1の場で行うことで、それぞれの時間を有意義なものにしているといいます。

「なぜやるか」を伝えると、提案の次元が変わる

社員であれば、日々の業務を通じて事業の背景や方針を自然と把握した状態で動くことができます。一方、業務委託は案件単位での関与となるため、「なぜこの施策が必要なのか」という文脈を明示的に共有しなければ、成果物の精度や提案の質を十分に引き出せません。
そうした業務委託特有の状況を踏まえ、清水氏は施策の背景説明を意識的に行っているといいます。

背景がわからないと、アウトプットの質が落ちます。逆に理解した上で咀嚼してもらえれば、こちらが想定していなかった視点からの提案が出てくることも。実際、顧客インサイトに関して「私はそういうインサイトにはならないと思います」という意見をもらったことがあって、協議した結果、改善につながった例もありました。(清水氏)

清水氏が大切にしているのは、提案を互いに持ち寄り、背景も含めてすり合わせながら進め方を決めていく姿勢です。成果物の依頼側であっても、相手の主体性を引き出す関係性を築くことが、業務委託活用を成功させるカギだと清水氏は話します。

検証スピードと戦略集中が生んだKPI2倍の成果

こうした取り組みの積み重ねは、やがて数字となって表れます。ユニット発足からわずか1年で、与信審査の通過者数は120件から260件へと倍増しました。

120件から260件へ、スピードある検証が生んだ成果

ゼロベースから積み上げてきたKPIが、業務委託による体制強化から1年で倍増に至ったその原動力となったのが、業務委託のメンバーとの協働による検証スピードの向上です。

業務委託メンバーに実行を担ってもらうことで、私自身は分析や戦略に集中できます。それぞれが得意領域にフォーカスしている分、計画からスケジュール設計、実行までのサイクルがとにかく速い。そのスピード感で検証を回せたからこそ、どこが一番の改善ポイントかを早期に見定めて、そこにフォーカスできました。(清水氏)

与信審査通過数のデータ整備と集客チームとの連携が整ったことで、どの流入経路が質の高いリードを生んでいるかが可視化されました。そのデータをもとに、効果の高いアプローチに絞り込んで施策を集中させたことが、与信審査通過数の倍増につながった要因だそう。

また、定性的な変化として清水氏が最大の収穫と語るのが、対象を絞らない一斉配信からセグメント配信への転換です。データが示す「リード獲得後1週間以内」というタイミングでのアプローチが最も与信審査通過につながるという勝ち筋を仕組みとして固定化したことで、単なる申込数の増加ではなく、質の高い申込みを継続的に生み出す体制が整ったと話します。

実行70%から戦略70%へ。業務委託が逆転させた時間配分

業務委託を活用する前の清水氏は、戦略策定とデータ分析にリソースを充てたいと思いながらも、実行業務に70%以上の時間を費やさざるを得ない状態にありました。しかし現在はその比率が逆転し、戦略策定とデータ分析に70%を充てられるようになったといいます。

データ分析も戦略設計も実行も、全部自分一人でやることはできません。正社員採用が難しい状況でも、お願いできるところは業務委託でお願いするという判断が、結果的に事業を動かすスピードを上げたと思っています。今は新しい正社員メンバーにも役割を引き継ぎながら、さらに体制を広げているところです。(清水氏)

同じ課題に取り組む担当者へのアドバイスとして清水氏が強調するのは、専門性の分散です。
全領域を横断できる人材を一人採用しようとするよりも、各領域に強みを持つ人材を必要なタイミングでスポット活用する方が、全体の最適化は速い――。

正社員採用が難しい環境の中でも、誰に何を任せるかの設計次第で事業は前に進む。清水氏の実践は、同じ悩みを抱える多くの担当者にとって確かなヒントとなるはずです。

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本記事で紹介した成果は取材対象企業固有のものであり、すべての企業に同様の効果を保証するものではありません。取材情報は2026年3月現在のものです。

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鈴木麻葉のアバター 鈴木麻葉 ナイルのプロ人材活用ナビ 編集者

イベント・カフェ・雑貨店などを運営する会社にて、イベントディレクターおよび自社雑誌の編集などを担当。その後、結婚式場の広告ディレクションやパンフレット制作を経験したのち、女性向けメディアの編集・ライターとして、コンテンツ制作に携わる。主にビジネス、美容系、ライフスタイル系などの分野を担当。